矯正研修所(名古屋支所)の見学
- 加藤
- 11月3日
- 読了時間: 6分
更新日:4 日前
10月30日(木)、矯正研修所名古屋支所へ見学に行きました。矯正研修所の見学は、萩野ゼミとしても個人としても初めてでしたので、非常に興味がありました。見学と言いましても、通常の刑事施設見学とは違い、私たち学生がワークに主体的に参加する「対話実践」の体験もありました。対話実践については名古屋支所でも「学生を交えて実施するのは初めて」だったそうで、こちらは後ほど紹介します!
はじめに、「矯正研修所」ってなんじゃらほい、ということで施設の概要を説明します。矯正研修所とは、簡単に、矯正施設で働く職員が適正で良い処遇・指導を行うために必要な知識・技能を学ぶための研修施設です。もっと簡単に説明すると、警察学校の刑務官版といったところでしょうか。東京都昭島市に「本部」があり、名古屋を含め全国7か所に支所が設置されています。矯正施設で働く職員とは、例えば刑務所の刑務官、少年院や少年鑑別所の法務教官・法務技官などが挙げられるでしょう。ちなみに、矯正研修所の制度的沿革は、昭和22年に国立の刑務官練習所が設置されたことに始まり、さらにその淵源はなんと明治23年に開設された監獄官練習所まで遡ります。この練習所では、クルト・フォン・ゼーバッハ(ドイツの官僚)を主任教授に任じたうえで、穂積陳重らを講師に迎え、当時としては最高水準の監獄実務教育を監獄幹部に対して行いました。
次に、そこで行われる「矯正研修」について説明します。名古屋支所においては、「初任研修課程刑務官初等科」、「任用研修課程中等科」、「専門研修課程専攻科」という3つの研修が実施されています。初任研修課程刑務官初等科では、新たに刑務官に採用された人に対し、職務上必要な知識及び技能を習得・向上させるための基礎的な教育及び訓練が集合研修として実施されています。任用研修課程中等科では、中等科入所試験に合格した刑務官らに対し、刑事施設の初級幹部として必要な知識及び技能を習得・向上させるための教育及び訓練が集合研修として実施されています。専門研修課程専攻科では、矯正職員に対し、矯正実務に必要な知識及び技能を習得・向上させるための教育及び訓練が実施されています。
とりわけ、集合研修での実施内容を説明すると、座学としては、ビジネスマナーをはじめ、社会人としての心構えやハラスメント防止、矯正心理学、矯正社会学、矯正教育学などの人間科学、そして憲法や刑法、刑訴法、刑事政策、成人矯正法、国家公務員法などの法律学を学びます。憲法は我が大学のU先生が担当し、刑法と刑事政策は萩野先生が担当しています。見学翌日には刑法のテストがあるそうで、研修生の皆様は必死に勉強しているとのことでした。実際に研修生の方々が生活する寮の部屋を見せていただいたところ、研修で使う教科書が置いてありました(部屋自体、とてもキレイに整頓されていました。私たちに見られるからキレイにしたというわけではなく、整頓がルールだそうで、部屋の扉には整頓マニュアルが貼られていました)。また、実技としては、護身術訓練や武器使用法、手錠使用法などを学びます。護身術訓練については、「自分の身も受刑者の身も傷付けないように」という目的があるそうです、納得ですね。
矯正職員の研修制度と任用に関しては、「試験が大きく影響する」ことが特徴です。例えば、刑務官の場合、採用されて看守となってから看守部長に昇進するには本来15年ほどかかりますが、採用から2年経てば中等科の試験を受けることができるので、合格すれば通常より13年早く昇進することができるのです。このような特徴から、40代半ばで刑務所長になるケースもあるとのことでした。
研修生活については、今まで刑務所や少年鑑別所の被収容者の生活を中心に見てきたので、かなり乖離がありました(そりゃ当たり前か(笑))。午前中のスケジュールとしては、6時30分に起床、6時50分から体育館を5周ほどランニング、7時20分に朝食、8時30に朝礼を済ませ、8時50分から90分の授業を2コマ受けて、12時から1時間の休憩です。ちなみに、体育館の広さは体感的に高校の武道場ほどでしたので、5周とはいえランニングはキツくなさそうです(笑)。そして、13時から授業を3コマ受け、17時15分から22時までが余暇時間です。全国から研修生の方々が来ますので、この余暇時間を有効利用して名古屋の街中に出るそうです。名古屋の大学に通う私としては、研修だけではなく、やはり観光(?)もしっかり楽しんでほしいです(笑)。もちろん、門限の22時を過ぎると処分を受けます。矯正職員である以上、ルールを守って当然である、ということですね。
最後に、最初にチラッと言いました、学生がワークに主体的に参加する「対話実践」を今回の見学で行ったので、紹介します。以前、名古屋刑務所のブログ記事でも、懲役刑・禁錮刑が廃止になり、「拘禁刑」という新しい刑に生まれ変わったという旨を紹介しました。それに伴って、受刑者本人の改善更生に向けた動機付けと受刑者理解の促進を図ることなどの観点から、対話実践が重視されるようになりました。また、特定の受刑者の問題を、1人の矯正職員だけが抱え込むことを防止する、受刑者と職員との間の信頼関係の構築、受刑者を1人の人間としてとらえる意識を涵養することなども理由として挙げられます。
今回、対話実践の方法として、リフレクティングを行いました。その手順として、①参加人数は3人以上で、②参加者にはそれぞれ「話し手」「聞き手」「観察者」の役割があり、③話し手が話したいことを話し、④話し手が会話する相手は聞き手のみで、⑤観察者が会話する相手も聞き手のみで、⑥聞き手は話し手の話を聞いて、その話について観察者と話します。その際の注意事項として、話を否定したり断定した表現を避けたり、無理に話させたりなどをせず、受刑者が安心して話せるような雰囲気を作ることが重要です。
実際に研修生の方々と対話実践を行ったところ、学生からは以下のような声が上がりました。「否定せずに聞いた話を短時間でまとめて共有して、さらに深掘りできる人はスゴイ、時間も限られるし頭の回転が速くないと…(笑)」、「受刑者が矯正職員と対等な立場で安心して本音を話せる場があると、受刑者にとって明日の光になる!」、「刑務官の方たちがどんなことを大切にして仕事しているかを知れたし、皆さん明るくて優しい方たちで私も楽しく対話実践することができた!」……などです。
このように、刑務官や法務教官などの矯正職員の皆さんが様々な研修を受けて、ひたむきに勉強をして、受刑者を向き合うために知識や技能を養っていることを思うと、非常に感慨深いものがあります。ぜひ、萩野ゼミ公式ブログをご覧の皆さんには、矯正職員の方々のお世話にならないようにしていただきたいですね(笑)。(私も含む)
ここまでお読みいただきありがとうございました。そして、今回の研修所見学を企画していただいた萩野先生はもちろん、矯正職員の皆様、研修所の皆様に大変お世話になりました。ありがとうございました。






※写真については一部、加工しています。


